三谷幸喜監督の前作『THE 有頂天ホテル』は「グランドホテル方式」の名の下に豪華スターによる群像劇が展開する、幕の内弁当的な映画だった。本作も登場人物は多いが、前作の役所広司があくまでも「群像劇の中心にいる人物」だったのに対し、本作で“伝説の殺し屋”デラ富樫を演ずる俳優・村田大樹を演ずる佐藤浩市は明確に主役として位置付けられている。
 ストーリーラインは「ニセモノが登場する話」と「バックステージ物」という、監督お得意のパターンを組み合わせてもう一捻りしたもの。「俳優がニセモノを演じる」という設定はテレビドラマ『合言葉は勇気』に通じるものがあるが、本作の場合はニセモノも騙されている、という点で更に複雑だ。舞台となる場所も多く、ラブストーリーあり、ガンアクションありと、三谷幸喜監督作品の中では最も「王道」を行く娯楽映画と言えるだろう。

 三谷幸喜は俳優に合わせて役を考える、いわゆる「アテ書き」を多用する劇作家だが、本作で特徴的なのは俳優ばかりでなくスタッフにまでアテ書きをしていることだ。「日本を舞台にした、日本人俳優が演ずるギャングの抗争物で、なおかつ同時にバックステージ物」などという作品は、美術担当・種田陽平の手掛けた「明らかに作り物だけれども現実の息づかいを感じさせる」守加護町のセット無くしては絶対に成立しない。またタイトルとなっている「マジックアワー」の何たるかを教えてくれるのは装飾美術家・島倉二千六の作品だ。こんな芸当が出来るのも、作家が「脚本と監督」として全権を掌握しているからだろう。

 少し残念なのは、カメオ出演の多さ。出ているのは皆、良い役者だし、出演場面で酷い芝居をしているわけでもないのだが、ちょっと小ネタが目立ち過ぎている。『THE 有頂天ホテル』のような構造の話ならそれも良いが、本作のような本筋の太い話ではそれが散漫な印象を与えてしまう。「映画中映画」を豪華キャストにしたのなら、それ以外の小ネタは心を鬼にして極力省くべきだったのではないか。

 本作では主要キャストはもちろんのこと、伊吹吾郎、市村萬次郎、柳澤愼一といった脇役陣も持ち味を存分に発揮している。そこに過剰な味付けをしてしまうのは逆にもったいない。出したい人、出たい人が多いのであれば、その人達を中心にまた別の作品を撮ればいいのだ。何たって「この人の撮った映画は次の作品も必ず観よう!」と思わせてくれる監督なのだから。

2008.08.19 Tue l 映画評 l COM(0) TB(0) l top ▲

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